2007年06月24日

きつねのともだち 特別編

バーです。
今日は趣向を変えて、ショコラで公演されました、きつねのともだちの小説版をお見せしたいと思います。

ネタばれも含まれているかもしれませんので、追記でどうぞ。

いつものように公園で遊んでいたら、ふと目があった。
公園のベンチにちょこんと座るその子は栗色の髪にちょっと釣り目が似合う、色白な綺麗な子だった。
それは幼稚園の時に読んだ絵本に出てくる雪の子のようで。
思わず見とれてしまったら彼女もそれに気づいて、ふわふわっとした笑顔を見せてくれた。
初めに気づいたのはボクだったけれど、すぐに周りのみんなも気づいて物珍しそうな視線が彼女に集まった。
この町は狭い。
だから、知らない子というだけで珍しい。
ましてやあんな綺麗な子なら一目見れば忘れない。
「転校生かな?」
ちーちゃんが思わず呟くと健ちゃんが返す。
「お屋敷の子じゃないの?」
お屋敷。
町の中には何件かお屋敷と呼ばれる建物があって、そこに何人かの子が住んでいるという噂。
同い年でも別のシリツという学校に通ってるという噂。
そのうちの一人かも知れない。
いつの間にか彼女の周りに輪ができ、でも彼女はそのふわふわっとした笑顔を返すだけだった。
最初に見つけたのはボク。
だから、ボクが声をかけた。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
「え?」
ああ、いけない、警戒されちゃう。
「ボクはあゆみ。あゆって呼ばれてる。そこのがっこの2年生。君は?」
「わたしは・・・ゆきこ」
「ゆきこちゃんかーぴったりな名前だな。俺は健二。3年」
「あたし千鶴!2年生だよ。あなたは?」
「がっこ・・・わたしは・・・学校に行ってないから・・・」
ふわふわっとした笑顔はさびしそうな笑顔に変わり、ちょっとした静寂が公園に降りてくる。
「いいじゃんそんなの。ねえ一緒に遊ぼ?体動かしたらまずいのかな?」
「え?大丈夫。体は別に悪くないから」
「じゃあ鬼ごっこしよ!健ちゃん鬼!」
「俺が鬼かよ・・・」
「いいじゃん3年生なんだから」
その日から彼女はボク達の仲間になった。
彼女は本当にお嬢様で、鬼ごっこも知らなければ、ケイドロも知らなかった。
でも、一度覚えると誰よりも上手で、みんなから褒められるとあのふわふわっとした笑顔を浮かべてくれて。
だからみんな幸せだった。
あの日が来るまで。



その日は夏休みで、朝からみんなで遊んでいた。
ゆっこはいつも昼過ぎに来る。
その日も昼過ぎに現れて、一緒に遊んだんだ。
みんな真っ黒なのに彼女は相変わらず白い肌で、相変わらずふわふわとした笑顔を浮かべて。
誰が言い出したのか忘れたけれど、木登りしようって話になって、彼女はやっぱり一番上手で、一番高いところに真っ先に登った。
健ちゃんが3年生の意地か何か知らないけれど、無理して彼女のところまで登ろうとして。
めりめりっという音がしたかと思うと、枝が折れた。
「うわーっ!」
悲鳴を上げて落ちていく健ちゃんの横を黒い影が通り抜けて、気づけばゆっこは健ちゃんを受け止めて一緒に転んでいた。
「いててて、あ、ありが・・・」
慌てて駆け下りたボク達の前で、お礼の言葉を最後まで言わずに固まってる健ちゃん。
震える手で彼女のほうを指差して。
「しっぽ・・・」
ゆっこから大きなしっぽ。
きつねのしっぽが生えていた。
「あ・・・ばれちゃった・・・」
いつものふわふわとした笑顔じゃなく寂しそうな笑顔。
「お、俺じっちゃんに聞いた!きつねは人間に化けて子供を食べるって!」
健ちゃんはずるずると後ずさりながら、そう言うと言葉にならない叫びを上げて逃げていった。
ちーちゃんは顔面蒼白になって固まっていたけれど、ゆっこが立ち上がると慌てて逃げていった。
ボクは、ちーちゃんいつもあのくらい真剣に走れば鬼ごっこで負けないのに、なんて考えながら立っていた。
「・・・逃げないの?」
最初に口を開いたのはゆっこだった。
「私、化けきつねだよ?」
ボクはなんで逃げないんだろう。
子供に親切にして油断させて食べてしまう化けきつねの話は、ボクも聞いていた。
でも怖くなかった。
ただ悲しかった。
ゆっこのふわふわとした笑顔が見られないことが悲しかった。
そんなボクの出した答え。
「・・・友達だから」
「友達?」
「うん」
「・・・」
「ゆっことボクは友達だから。友達は信じなくちゃいけないんだ」
「ありがと」
いつものふわふわとした笑顔じゃないけれど、彼女は笑ってくれた。
だからボクも嬉しかった。
「もうすぐ人が来る。お別れだね」
ゆっこにそう言われて気づいた。
これで逢えるのは最後かも知れない。
ボクは必死で考えた。
「ゆっこは他の人には化けられないの?」
「んー、まだ無理。もうちょっと大人になったら・・・」
「何年後?」
「あと1年くらいかなぁ」
「じゃあ、1年経ったら、また逢えるね」
「でも、私だって気づかないかも知れないよ?」
「大丈夫。友達だからわかるもん。それに・・・」
ボクは首にかけていたロケットをゆっこに渡した。
「これをかけてくれれば、絶対にわかるから」
それは死んだばっちゃんから貰ったロケット。
じっちゃんが手作りで作った、ちょっと不恰好なロケット。
ボクの大切な宝物だけれど、大切な友達には替えられないから。
「ありがと。もう行かなくちゃ。きっとまた来るから」
「約束だよ!1年経ったらこの場所で!」
「うん。きっと来るから」
ボクとゆっこが指切りをすると、彼女は小さなきつねに戻り、走り去った。
首にかけたロケットがきらきらと光り、綺麗だった。
少しして大人たちが来て、ボクが無事だとわかるとほっとした表情を見せて。
色々聞かれたけれど、ボクは約束のことを言いそうになるから、黙ってた。



それから一年が経っても二年が経っても、彼女が公園に来ることはなかった。
ボクは毎日待ち続けた。
そして、三年経った正月。
来年中学生になるボクは大っ嫌いなおじさんの家に行かなくちゃいけなかった。
おじさんは猟師で、獲った獲物の自慢話ばかりしてる人だ。
ゆっこのことを思うと、どうしても好きになれなかった。
でも、机を買ってくれたお礼に行かなくちゃいけなかった。
いつものようにおじさんの自慢話が始まった。
ボクも6年生だから適当に相槌を打ちながら聞き流していた。
昨年は町で一番いのししを獲ったとか、おととしは熊を倒したとか。
三年前にきつねを獲ったとか。
きつね?
今きつねって言った?
ボクが思わず顔を上げた。
「そのときに面白いことがあってな」
おじさんは立ち上がって、いつもタバコを入れてある袋に手を入れると。
「こんなもん首にかけてたんだ」
絶対に忘れない、忘れるはずもない。
あのロケットだった。
ボクはそれをひったくると、ロケットを開いた。
中には一枚のぼろぼろの紙が入っていた。
たどたどしく書かれた文字。
”ともだち”
母の話だと意味不明な言葉を並べて泣きじゃくり、おじさんを困らせたそうだ。



ボクは今年で高校を卒業する。
あのときのボクはおじさんを恨んだけれど。
今は思うんだ。
彼女は生きてるんじゃないかって。
もしかすると、あのロケットは、他のきつねに自慢するために貸したものじゃないかって。
ロケットを無くして、ボクの前に出れなくなったんじゃないかって。
大丈夫だよ。
ロケットなんか無くたって、わかるから。
ロケット無くしたことで責めたりしないから。
だって、友達だもん。

ボクは今日も公園で、ゆっこが来るのを待っている。

FIN.
posted by バー at 23:21| Comment(6) | TrackBack(1) | 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
(涙)。

ショコラの劇もよかったです。
Posted by たま at 2007年06月24日 23:46
こっちもいい〜(涙)
Posted by くぉ太 at 2007年06月25日 00:50
どっちも素敵なお話ですね
ありがとうございました。
Posted by 柊麒 at 2007年06月25日 01:33
某所には書きましたけど、小説版は脚本の後にリライトしたものです。
Posted by バー at 2007年06月26日 23:31
完成度の高さから、小説版が先にあったものと思っていました。
舞台版とちがって具体的なセリフのやりとりがない分、
「ともだち」の四文字と直後の一行の余韻がたまりません。
脚本も小説も、それぞれテーマの芯が通っていて、すばらしかったです。
よい作品を味わわせていただき、ありがとうございました。
Posted by 某所猫 at 2007年06月28日 00:06
か、感動です・・・っ
Posted by ティアス at 2007年08月28日 14:55
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